今日も九分には灯りがともる。
異国の人で溢れるバスの中、僕は眠っていた。
幾度となくやってくるカーブには心底嫌になった。
こんにちは大学生バーテンダーです。
僕は二月に一週間ほど台湾へ旅行しに行ってました。
今回は九分に行った時のことについて綴りたいと思います。
皆さんも絶対知っているであろう映画
「千と千尋の神隠し」
2001年に公開され空前のブーム。日本の興行収入1位を記録し未だに破られていない
幼い千尋がハクとの出会いをきっかけに成長するストーリーは感動ものだ。
しかし、僕はそれよりも心惹かれるものがあった。
景色
赤く光る提灯、躍動感あふれる作画
幼かった僕は映画が醸し出す雰囲気の虜になった。
その中でも一番有名な
そうここ
父と母が豚になったシーンのここ
小さい頃から僕はどうしてもここに行きたかった。
そしてやってきた台湾滞在三日目
いつもより早起きして僕はホテルを出た。
とは言ってもまっすぐに九分へと向かわずに、十分という土地に寄り道した。
そこで三時間ほど時間をつぶし、いざ九分へ。
ルイファン駅で下車し、九分までのバスを待った。
駅の前は観光客でごったがいしていた。その時はあまりコロナウイルスの脅威も感じていなかった。
バスを待つこと約10分。九分老街へのバスが来た。
沢山の言語が混じり合うバスの中で僕は景色を見ずにずっと目を閉じていた。
徐々に見えてくる九分より、目を開けた瞬間に見えてくる九分の方がずっと面白いと思ったからだ。
薄目の状態でバスをおり、そこで目を開ける。
視界の先にあったのは、まぎれもない映画の中の景色だった。
木造建築が高く高くそびえたっており、つたやコケが纏わりついていた。
取り合ず僕はイヤホンを取り出した。
やってみたかったんだ。千と千尋の神隠しのBGMを聞きながらモデルとなった場所を歩くということを。
見るものすべてが美しかった。そこには一人一人の生活があって、ぼくの知らない人間が生きている。地図では見ることができない九分がそこにはあったのだ。
僕が九分に着いたのは午後5時頃。
一度行ったことがある人ならば分かるだろう。
九分の本番は午後6時を過ぎたころ。
赤い無数の提灯に明かりがともる頃。
日が沈んだ後の九分は言葉に表すことが出来ない美しさだ。
僕の目の水晶体がギュッとオートフォーカスした。
まるで人ごみの中で千尋が泣きながらどこかを走っているのではないかと思った。
そんな空間に僕はいた。
日本では味合うことのない異国の雰囲気と映画の中の世界をぼくは体感した。
一番回りを見下ろせるポジションへ行きレンズをのぞき込む。
深呼吸をしてシャッターを切る。一番きれいな瞬間を残したかった。
今後の人生で退屈な時がやってくるだろう。
何もしたくなくなる時が来るだろう。
そんな時に救ってくれる写真を撮りたかった。
そこからのことはあまり覚えていない。
感動して泣いたのか嬉しくて泣いたのかわからない。
ただただ全力でその日を楽しんだ。
恐らく僕は二度とこの場所に来ることがない。
そう思えばどんな瞬間でも大切に思えるのだ。
標高が高い所にあるこの町を明日も明後日もずっと先も赤い提灯がともすだろう。
僕は振り返ることなくこの町を去った。
「今日のカクテル」
「ルシアン」
カクテル言葉は「誘惑」